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サーキュラーエコノミーで社会変革

「環境負荷低減」「経済合理性」を両立

2024年07月23日

地球環境

主席研究員
遊佐 昭紀

 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として「持続可能な開発目標」(SDGs)が国連総会で採択されて以降、世界各国でさまざまな取り組みが進んでいる。特にSDGsに設けられた17のゴールに関連する環境問題は、幅広い国や地域で具体的政策が展開され、われわれの社会生活の中に浸透している。

 環境問題のうち地球温暖化や生物多様性減少による影響は、異常気象の頻度が高くなったり、森林の荒廃が進んだりと、われわれの社会生活にも身近に感じられる。多くの人がどのような行動を心掛ければよいかイメージが湧いているだろう。その一方で、イメージがつかみづらいものもある。それが「循環経済」(サーキュラーエコノミー)だ。この考え方をいち早く理解し、持続可能な経済活動につなげることが、企業に求められている。

「循環経済」と「循環型社会」

 サーキュラーエコノミーは、日本政府が推進してきた「循環型社会」と言葉が似ていることもあり、議論の中心はリサイクルに関する話題となることが多い。

 しかし本来のサーキュラーエコノミーは、欧州を中心に提唱されている新しい考え方だ。従来の大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした一方向に進むリニアエコノミー(線形経済)を見直し、製造・販売・利用などさまざまな段階で資源の効率的・循環的な利用を図りながら付加価値を最大化する。単なる環境規制や環境政策とは異なる。これまでの経済活動を転換し、大きく社会システムを変えて持続可能な経済活動への移行を目指している。

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 リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーのイメージ
(出所)各種文献を参考に作成

 では、具体的なイメージがつかみづらいのはなぜだろうか。地球温暖化対策は、既存の事業活動を前提に再生可能エネルギーの活用やさらなる省エネ化を推進する。「経済活動の維持」を図りながら「環境負荷の低減」を進めるため、何を手掛けるのかイメージしやすいと考えられる。

新しい考え方

 しかし、これまでの経済活動のままでは、既存の仕組みの上に新たな投資をすることになり、時として経済合理性に欠け、利益が減少する場合もある。他方、サーキュラーエコノミーは新たな「考え方」であり、他の環境問題の対策とは根本から異なる。

 この新たな「考え方」を整理すると次のようになる。

 われわれが便益を享受するために推進してきた経済活動によって、地球環境に悪影響を与えている。今まで同様の便益を享受する際に地球環境へ与える悪影響を抑制することができないか。生産単位あたりの資源の使用量を減らし、資源使用や経済活動による環境への負荷を軽減することが考えられないか。このように、経済便益の享受と環境への悪影響をデカップリングする(切り離す)ために経済活動を根本的に変えて行く考え方だ。

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サーキュラーエコノミーによる二つのデカップリングイメージ
(出所)UNEP Decoupling Natural Resource Use and Environmental Impacts from Economic Growth」 を参考に作成

社会の仕組みを変える

 つまり、サーキュラーエコノミーでは、同じような便益を享受するために社会の仕組みを変えることが前提となる。「環境負荷の低減」と「経済合理性(利潤の追求)」をいかに両立するか。このコンセプトに基づいて製品(モノ)とサービス(コト)を準備して、その準備したモノ・コトに適したビジネスモデルを立ち上げ、経済活動を変革していく。

 具体的には、製品の設計段階で長期使用を視野に入れ、修理を前提に分解しやすい構造にしたり、交換しやすい構造にしたりする。初めから修理することが前提のモノづくりと、修理を受けやすくするサービスの仕組みを提供する。環境政策の一つではあるが、地球温暖化対策や生物多様性への対応とは異なり、目標値ではなく、その概念や具体的なアプローチの方法を示すことで説明するケースが多い。このためイメージがつかみづらいのだ。

ミシュランのビジネスモデル

 ではサーキュラーエコノミーの実践は具体的にどのようなものなのだろうか。これを実現する製品・サービス、ビジネスモデルなどの研究を進めている東京大学・工学系研究科の木見田康治特任准教授(文末に略歴)に具体例などを聞いた。

 木見田氏が挙げたのは、仏大手タイヤメーカーのミシュラン。同社は運送会社向けに、従来のタイヤを売り切るビジネスを取りやめ、走行距離に応じてタイヤの利用料を受け取るビジネスモデルを展開。利用者の走行距離の算出やタイヤ状態を検知するセンシングやIoT(モノのインターネット)を駆使し、タイヤを「使い捨て」するのではなく、摩耗具合に応じて例えば再び溝を掘ったり、ゴムを張り替えたりする。メンテナンスにより、使い続けるサービスを提供している。

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利用者にもメリット

 さらに多くの文献でも取り上げられているように、同社は使用済みの製品は100%回収し、リサイクルタイヤの材料にするというシステムを構築。タイヤの廃棄を減らすだけでなく、ユーザーにとっても①高価なタイヤを購入することなくリーズナブルに利用できる②タイヤのメンテナンスの時期や料金など利用時に発生する負担を逐次把握できる―といったメリットがある。

 このように、「環境負荷の低減」と「経済合理性」の両立が、サーキュラーエコノミーの具体的な取り組みなのである。

 木見田氏は、長期使用を視野に入れ、「プロダクトで何ができるから、ビジネスモデルにチャレンジしないといけないとか、そういうビジネスモデルにチャレンジするからプロダクトはこうなるべきだという議論を進める」と語った。さらに「それを推進するときの報酬制度や評価制度、組織が必要だというマネジメントの話につながっていくことが必要だ」と指摘した。既存の経済活動の脱却に向けて、乗り越えなければならない壁の存在を明示している。

モノづくりとサービスの統合

 日本でのサーキュラーエコノミーの議論の中心は先に指摘したようにリサイクルに関する話題となることが多い。モノづくり視点の議論が先行し、ビジネスモデルをどう変え、どのように持続可能な経済活動につなげるのかといった議論が不足しているのではないか。モノづくりの準備ができたとしても、リニアエコノミーの仕組みのままでは、持続可能な経済活動は実現できないだろう。

 サーキュラーエコノミーが実現する社会では、かつてのように常に新しい製品がマーケットに入っていく機会は減少し、製造するモノは減少すると考えられる。だからこそ、サーキュラーエコノミーを具体的に運用するサービスの仕組みと合わせて検討し、持続可能な経済活動をどう作っていくのかが、企業に問われている。モノづくりとビジネスモデルの統合をいち早く検討し実践した企業が、次の時代の勝者となる日もそれほど遠くないはずだ。

欧州で導入フェーズに

 国際的にはすでに導入フェーズに入りつつある。先行する欧州連合(EU)では「持続可能な製品のためのエコデザイン要件を定める枠組み規則」(エコデザイン規則)が、今年5月に成立。この規則は、食品や飼料、医薬品など一部を除きほぼすべての物理的商品を対象としている。今後数年にわたり具体的に運用するための詳細な議論が製品カテゴリごとになされ、早いものは2027年から運用が始まると想定されている。

 この規則では、①モノが市場に投入されるまでの環境負荷情報(二酸化炭素排出量やエネルギー使用量)②利用している材料に関する情報(リサイクルの可能性、懸念すべき物質の有無など)③資源循環に関わる項目(ソフトウエアなどが更新できるか、修理はできるかなど)―などモノを作り出す段階から、使用して回収するまでの幅広い持続可能性要件が定められる。

 この情報は、同規則で明示された「デジタル製品パスポート」(Digital Product Passport=製品のライフサイクルに沿った詳細な環境関連情報が記録されたデジタル証明)で、消費者や関係者に開示することが求められている。

好循環の創出

 利用者は、製品やサービスが持続可能な経済活動に対応しているかを確認・判断でき、企業はサーキュラーエコノミーに基づいたモノやサービスを提供する。EUは、このような好循環の創出を図っている。この取り組みを定着させて貴重な資源を域内で循環させ、新たな雇用の創出や安全保障上の懸念を払しょくし、持続可能な経済活動の創造を狙っている。

 日本でも導入に向けた動きが活発化してきている。2023年3月に策定した「成長志向型の資源自律経済戦略」に基づき、サーキュラーエコノミーの実現を目指して産官学の連携を促進、協議する場として「サーキュラーパートナーズ(CPs)」が設立され、同年12月に第1回の総会を開いた。300を超える企業や各種団体、研究機関が参加し、以降さまざまな議論がなされている。今後より多くの視点でサーキュラーエコノミーの議論が活発化していくことが期待されている。

〔略歴〕
木見田 康治氏(きみた・こうじ)
 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・特任准教授、博士(工学)。
 2011年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士課程修了。日本学術振興会 特別研究員(PD)、東京理科大学工学部第二部・助教、東京都立大学システムデザイン学部・助教、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・特任講師を経て、2024年より現職。
 主としてCircular Economy、製造業のサービス化(Servitization、Product as a Service、Product-Service Systems)、サービス工学、設計工学の研究に従事。

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遊佐 昭紀

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※この記事は、2024年6⽉25⽇発⾏のHeadLineに掲載されました。

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